「歯の神経の大切さ」をご存じですか?
重度のむし歯になって慌てて歯科医院に駆け込むと、ほぼ確実に神経の処置が必要になります。歯の神経は健康なお口を維持するには欠かせないものですが、その重要性を理解している方は残念ながらまだまだ少ないように感じます。
こちらのページでは、歯の神経の重要性について分かりやすくまとめました。今ある歯の神経を守りたい方はもちろん、神経を失った歯がある方もぜひご参考ください。
歯の神経とは?
歯の神経には「痛みを脳に伝える」「歯に酸素や栄養を与える」「防御反応を伝達する」という3つの役割があります。
歯の神経の役割:痛みを脳に伝える
歯の中心部には歯髄(しずい)という組織があり、そのなかに神経が存在します。
歯の表面にあるエナメル質は硬い組織であり、むし歯が発生して穴が開いたとしても、エナメル質内部に留まっていれば基本的に痛みは発生しません。エナメル質の奥にある象牙質までむし歯が進行したときに、しみたり、ときどき痛んだりするといった症状が出始めます。
象牙質まで進んでしまったむし歯は、徐々に進行します。
象牙質の奥には歯髄があり、そこまでむし歯が進行すると強い痛みをともなう場合がほとんどです。歯髄を取り除けば痛みはおさまりますが、痛覚は生きる上での大切なサインであり、本来失っていいものではありません。
神経の役割:歯に酸素や栄養を与える
硬いものをしっかり噛めるのは歯が丈夫な証拠です。神経のある歯は文字通り生きていますので生活歯と呼ばれます。神経は歯に必要な酸素や栄養を届ける役割があるため、むし歯などで失われると丈夫な状態を保てなくなります。
神経を失った歯は枯れ木と同じで、ヒビや破折といったトラブルがおこりやすくなり、寿命が大幅に短くなるケースも少なくありません。神経が死んでしまった歯を失活歯と呼びます。
歯根(歯の根っこ)が残っていれば差し歯で対応できますが、天然歯とは耐久性が異なるため、硬いものを噛むときは注意が必要です。
神経の役割:防御反応を伝達する
歯の内部へ菌が侵入してきたときに防御反応を伝達して、象牙質を添加したり、歯髄炎という炎症を起こしたりして進行を遅らせる働きがあります。
抜髄処置について
歯の神経をとる処置を「抜髄処置(ばつずいしょち)」または「抜髄根管治療(ばつずいこんかんちりょう)」といいます。
よく「歯を抜くんですか?」とご質問をいただきますが、歯髄のみを除去するため歯そのものは残ります。抜歯とは別物ですのでご安心ください。
唾液の侵入を防いで成功率をアップさせる
抜髄処置では、歯を大きく削って内部を上から覗ける状態にし、リーマーやファイルとよばれる小さな器具を使って歯髄を取り除きますが、そのときに唾液が内部に入らないように注意しなければいけません。唾液には多くの細菌が存在し、内部に入ると治療の成功率が大幅に下がってしまいます。
再発を繰り返せばその分歯の厚みが失われてヒビや破折のリスクが高まるので、1回目の根管治療を成功させることがとても大切です。
当院では、唾液の混入を防ぐためにラバーダムとよばれる専用のシートを使用して、抜髄処置を行うため再発のリスクを最小限に抑えられます。また拡大鏡を用いて根の内部までしっかり確認しながら治療を進めています。
歯の神経を失なった歯の予後
神経を失った歯は、歯の寿命でいう最終ステージです。トラブルが起こりやすく、何か起これば抜歯になる可能性があります。歯の寿命は生活歯に比べて極端に短くなります。対策をしなければ長く使い続けることはできません。
どのようなトラブルがおこりやすいのかを把握して、適切な予防を行ってください。
ヒビや破折のリスクが高く、力いっぱい噛めない
神経を失った歯は、栄養が行き届かなくなって脆くなるため、今までどおり力いっぱい噛むことはできません。
ヒビや破折がおこると、最悪の場合抜歯が必要です。
2次う蝕(むし歯の再発)
菌に対する抵抗力が落ちることで、2次う蝕が発生しやすくなります。むし歯が進行しても痛みを感じることができないため、発見が遅れるケースも少なくありません。
早期発見・早期治療に最適な定期検診を受けて、神経を失った歯を2次う蝕から守りましょう。
根尖病変の出現
根っこの先に膿が溜まる病気を「根尖病変(こんせんびょうへん)」といいます。歯根内に菌が増殖することで引き起こされる病気で、主に菌に感染して壊死した歯髄の放置や、根管治療で感染組織の取り残しなどが原因です。
膿が自然に消失することはなく、放置すればそれだけ大きくなり歯槽骨が失われます。噛んだときに違和感があったり、歯が浮いた感じがしたら根尖病変の疑いがあるため、早めに受診してください。
根尖病変を防ぐには「1回目の根管治療でレベルの高い治療を受けること」と「根管治療を途中でやめないこと」の2点が重要です。
歯の神経を失わないためにできること
歯の神経を失うタイミングでもっとも多いのは「重度のむし歯」です。
むし歯予防を徹底していれば歯の神経を失うリスクは大幅に減らせるため、当院では定期検診での予防をおすすめしております。
むし歯治療が必要になった場合も、最低限の機能回復を目的とした保険適用のものでなく、セラミックや金合金など耐久性や適合性の高い素材を使用して行うほうが、2次カリエス予防に役立ちます。
歯の神経を失わないための予防と、神経を失った歯の保存のための予防の両方を意識して、今ある歯を長く使い続けましょう。